METALLICA / THE THING THAT SHOULD NOT BE
       Written by J.Hetfield/L.Ulrich/K.Hammett

1992年、TBSの「ギミアぶれいく」という番組内で佐野史郎主演の短編ドラマが放送された。タイトルは「インスマスを覆う影」。その後、ビデオ化されているので見た人も多いだろう。この物語の元となったのがハワード・フィリップス・ラヴクラフトの小説「The Shadow Over Innsmouth」。それがメタリカの「The Thing That Should Not Be」の題材となった物語である。ラヴクラフトのクトゥルー神話は今もなおその人気が衰えることもなく、ホラー映画(ダゴン等)やコンピューター・ゲーム(ネクロノミコン等)の題材に使われている。アイアン・メイデンもアルバム「LIFE AFTER DEATH」のジャケットにラヴクラフトの小説からの引用を用いている。

その物語を知らないとこの曲の意味はわからないので、長くはなるが物語りのあらすじをまとめた。

            「インスマスを覆う影」 (1936年)   "The Shadow Over Innsmouth"  by H.P. Lovecraft

ニューイングランド地方で旅行中だった学生。ニューベリーポートから母方の里アーカムへ向かう中、安上がりの旅程を探していた。ニューベリーポート駅の係員に訊ね、インスマス経由のおんぼろバスに乗り込むことになる。しかしこの係員からインスマスの不吉な噂を聞く。そこに住むマーシュと言う船乗りは大金持ちだが人前に姿を現わさない。悪魔と取引したという噂も立っている。1846年の伝染病で人口は半減し、さびれる一方の海港の町。だがなぜか魚がよく獲れる。ヨソ者に対する警戒心が異常に強く、観光客や戸籍調査の役人までが行方不明になるらしい。そしてインスマス住民には独特の面相があり、それが非常に不快なものなのだという。 でも風景はキレイだから日中観光するだけならいいんじゃないか、と言われた主人公はバスに乗り込む前に博物館に立ち寄る事にした。

博物館にインスマスから持ってこられたという装飾品があると言う。インスマスの沖にある暗礁には昔、海賊が帰来していて、その財宝が残されていたらしい。 しかし主人公がそこで見たのはこの世のものとは思えない金の冠だった。

その冠の浮彫りは、思わず顔をそむけたくなるほどグロテスクで悪意に満ちた忌まわしい、魚と両棲類の雑種を思わせるものだった。この二つの生物を想像させる奇妙な感覚と、頭に浮かんでくる不思議な潜在記憶とを切り離すわけにはいかなかった。その怪物の姿を見て、祖先伝来のものである深層意識から、ある生々しいイメージが呼び起こされたように思えたのだった。この神を冒涜するような半魚半蛙の姿こそ、人間のまだ知らない、非人間的な悪の真髄に満ちあふれているのだ・・主人公はこう考察する。さらにインスマスの魔物崇拝が「ダゴン秘密教団」という宗教に関わるものであることを知った。建築物や歴史的なものに対する期待だけでなく、強い人類学的興味を抱いた主人公は昼間にインスマスの町を訪れてみようと考え、その日はニューベリーポートで一泊したのだった。

翌日、インスマスに向かう。バスに乗ると乗客は自分だけだった。運転手はまるで両性類のような顔をしている。その嫌悪感は、駅の係員の言葉を裏切らないものであった。そして魚市場のような魚臭さが、主人公を不快にする。バスに揺られ、やがて廃虚のようなインスマスに入っていく。

その町は、まさに荒れ果てた場所であった。人口は400人程度。住民は「インスマス顔」ともいうべき、ある共通点を備えていた。バスから降り、主人公はとりあえずドラッグストアに入ってみる。店員がインスマスの人間ではなかったのをいいことに、色々と話を聞き出す事に成功する。ダゴン秘密教団というのはそうとう危ない集団であり、近付かない方が良いという警告を受けた。教団は不老不死についての教義を持っていると言う。他にも、この街の連中は水が好きだとか、家の中にとんでもない連中が隔離されているとか、妙な外来系の血があのインスマス顔を作っているらしいなどの情報を得る。そして白髪のザドック・アレン老人から昔の事を聞けるかもしれないが、彼は頭が半分狂っていると店員は語った。主人公は泊まるつもりはないけど適当に街を見て回る事にし、街の簡単な地図と警告を受け、ドラッグストアを後にした。

実際に街を歩いてみると、やはり全体的に不気味だ。閉められた家が多いが、その戸口の向こうから生き物の気配がする。漁師達は無口で、普段何を楽しみにしているのかまったく判らない。それどころか人の話し声すらほとんど聞こえない。「ダゴン秘密教団」のメッカ近くで、主人公は不思議な人物を見かける。どうやら教団の司祭らしいのだが、彼の頭にはニューベリーポートの博物館で見た金の冠が載っていたのだ。歩いてみて判ったのだが、どうも海に近付くにつれてインスマス顔は酷くなっていくようだった。それと金の精練工場はほとんど使われていないらしい。そして海の沖合いには「悪魔の暗礁」と呼ばれる岩が見える・・・。

主人公はザドック老人を見つけることができた。老人を人気の無い場所に連れ出すと、何とか彼からインスマスに関する話を聞き出そうとした。老人は酒に目が無いのでウイスキーを飲ませて盛舌になるように仕向けたのだ。段々良い気分になってきた老人は、とうとうインスマスにまつわる不思議な話を語り始める・・・

「19世紀初頭、インスマス出身で貿易船の船長だったオーベッド・マーシュが、太平洋カロリン諸島のある島でカナカイ族という部族と接触したと言う。彼らは金で作られた腕輪や腕飾り、そして頭につける装飾品を持っていた。マーシュ船長は、カナカイ族が持つそれらの財宝の入手が彼らの信仰によることを知って、その信仰の実態を聞き出した。カナカイ族は海の底に住む魔神クトゥルーに若い男や娘を生贄に差し出して、そのお返しに恵みを受けてきたのだと言う。奇怪な形の彫像を崇めるその一族は、漁の時には好きなだけ魚が捕れる。そしてもの凄い容貌をしていたという・・・。

どうやらその一族が崇めている神はそういう力を持っているらしい。かつて世界の海の底には様々な街が存在していて、ある時、その一つが海面に姿を現わしたと言う。そこ街では異形の生物が生活をしていて、カナカイ族はその生物たちと身振り手振りで契約を結んだ。暮らし向きが悪かったので、彼らはその生物たちとの契約を承諾したのだった。見返りとして豊漁と貴金属を得るに到ったのだ。更にその生物が語るには、自分達との混血を行えば、初めは人間に似ているがやがて怪物に近付き、ついには海の中に帰って行く子供が生まれるだろうということだ。そしてさらにそこには一つ魅力的な見返りがあった。怪物と混血したものは、事故などの外傷以外で命を落とす事はない。そう、一族は不老不死の力を得たのだった・・。

長老からそんな話を聞いたマーシュ船長は、さらにその生物たちとの契約方法や実際の取り引きについての教えを得た。そしてインスマスに帰って行った。その数年後、そこで手に入る金品や豊漁を求めて、マーシュ船長はもう一度、島を訪れてみたのである。 すると島の住民は殆ど消え失せてしまっていたのだ。そこで手に入る財宝で貿易を始めようとしていたマーシュ船長にとってはショックだった。インスマスは再び不況の風にさらされる事になってしまう。そしてとうとうマーシュ船長は悪魔の暗礁に<彼ら>を呼び出した。そして彼らはインスマスの街に上陸し大挙して町を襲ったのだった。その時の被害は伝染病として片付けられた。海賊の宝は、実はその怪物たちが残していったものだった。そして混血が進んでいった・・・。」

そこまで話して老人は叫んだ。「ここから逃げろ!あいつらに見られてしまった!すぐに逃げるんだ!」と。主人公は駆け出した。振り返った時、老人の姿は見えなくなっていた。 そして主人公はインスマスのバス停留所に戻った。するとバスが故障している。主人公はやむなく、インスマス唯一のホテルに宿泊する事にしたのだった。

すると夜中に誰かが部屋の中に押し入ろうとしてくる。集団で、奇妙なこもった声を発している。秘密を知ってしまったので始末しに来たのだと思い、ホテルの窓からカーテンをつたって逃げる。 なんとかホテルを脱出した主人公だったが、町中が前かがみになって歩く人影で一杯になっている。ほとんどの道路が封鎖されているようだ。主人公はある事を思い出す。廃線になった線路があるというのだ。そこに行けば脱出できるかもしれない。

見つからずに町の外れまで来る事が出来た主人公は追手の一団の姿を目撃してしまう。彼らの腹は白かったが、その体の全体の主な色は灰色がかった緑であった。背中の端には鱗、頭はまるで魚、閉じることのない眼、首の両わきにはエラ・・・。四本の足で跳ねながら歩行する魚のような怪物たち。その一団の姿を見て、主人公は気を失ってしまう。正気に戻った主人公は命からがらインスマスから脱出する事に成功する・・・。

翌々日、主人公はアーカムで役人に事情を訴えた。のちに、インスマスでは連邦政府によって住民が大量逮捕され、町の各所が爆破された。 主人公は学生生活に戻ったが、ある時、母方の家系図を作ることとなった。研究していくうちに母方の曾祖母はマーシュという姓を持ち、身元が確定できないことを知った。さらに叔父に曾祖母から伝わる宝石を見せられた時、主人公は再び気を失ってしまった。それはあの浮き彫りのある冠だったのだ。インスマスの暗い影に怯えながら二年を過ごした主人公は、海底で祖母と曾祖母に会った夢を見る。そして朝、鏡に映る自分の姿を見て絶叫した。その顔はまぎれもないあの「インスマス顔」だった。

主人公はピストル自殺を考えた。だが夢のことを考えて思いとどまる。そして次第に深海に対する恐怖を失ってゆく。知らずの内に「ラ・ル・リェー!クトゥルフ・フタグン!ラ!ラ!」と口が動く。ある日、主人公は暗礁を目指して泳いで行った。暗黒の深淵を潜り抜けて、深海の魔神の巣窟の中で永遠に暮らすのを夢見て・・・・。

THE THING THAT SHOULD NOT BE

Messenger of Fear in sight / Dark deception kills the light
Hybrid children watch the sea / Pray for Father roaming free
Fearless Wretch / Insanity / He watches / Lurking beneath the sea
Great Old One / Forbidden site / He searches
Hunter of the Shadows is rising / Immortal / In madness You dwell


恐怖の使者が姿を現わす / 暗黒の欺瞞が光の息の根を止める
混種の子供たちは海を見つめ / 自由に徘徊する祖先に祈る
恐れ知らずの輩 / 狂気 / 彼は見つめる / 海底に潜みながら
偉大なる父 / 禁じられた光景 / 彼は探す
影の狩人が今、立ち上がる / 不死 / その狂気の中、お前は暮らす

Crawling Chaos underground / Cult has summoned / Twisted sound
Out from ruins once possessed / Fallen city / Living death


這いまわる混沌は地底深く / 祭儀が召集され / 音が捻じ曲がる
かつて支配した廃墟から / 落ちていった町 / 生きる屍

Not dead which eternal lie / Stranger eons / Death may die
drain you of your sanity / face The Thing That Should Not Be


永遠に横たわるのは死ではなく / 会ったことのない者の永劫 / 死さえもが死を迎える
お前の正気を搾り出す / 有り得ないものと今、向かい合うのだ


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